大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和34年(ネ)809号 判決

事実

控訴人らの抗弁 「(1)本件消費貸借契約、抵当権設定契約及びかりに代物弁済の予約が成立したとしても同予約は、訴外工藤陸男が一面被控訴人を代理すると共に他面控訴人らを代理してなした双方代理による契約であるから無効である。(2)本件は、控訴人松本博が本人兼控訴人松本極人の代理人として工藤陸男を代理人に選任して本件消費貸借がなされたところ、松本博は復代理人選任権を有せずかつ、博は極人と同居していたのでやむを得ない事由で工藤陸男を復代理人に選任したということはできないので、少なくとも、控訴人極人に関するかぎり右の点からしても本件消費貸借及びその担保契約は無効である。(3)原判決事実二の(五)につぎのとおり付加する。すなわち、代物弁済の予約は、元本債権全額が予約完結の意思表示のなされる当時存することが必要である。もつとも、右と異なり元本債権の一部のみ残存する場合は格別その大部分が存するかぎり、完結権を行使しうると解し得るにしたところで、大部分といいあるいは一部分というのは、一体どの程度標準で区別するのか等の解釈上の疑問を生じ終局するところを知らぬであろう。要するに、予約完結権行使の時において、元本全債権の存在することは、代物弁済の効力要件といわなければならない。」

被控訴人の主張 「控訴人らの当審における右主張中被控訴人の主張に反する部分は否認する。本件の建物は接続して存在し、控訴人両名は親子であつて、これを共同占有している。」

理由

当裁判所の審理の結果に徴しても、控訴人らの抗弁はすべて理由がなく、被控訴人の請求を認容すべきものと判定する。その所以は、つぎのとおり補加訂正する以外は、原判決説示のとおりであるからここに引用する。

一  弁済期を昭和三一年二月九日とする元金一五〇万円の消費貸借は存在しないので、これに基因する代物弁済の契約も成立しないという趣旨の控訴人らの抗弁(原判決理由一一)について。

被控訴人が昭和二九年八月九日控訴人博に対し、金一五〇万円を、利息月二分毎月九日払、元金の弁済期昭和三〇年二月九日、利息を期限に支払わない場合は、元金の弁済につき期限の利益を失う。元金の遅延損害金日歩八銭の定めで貸与し、控訴人極人は右債務に対し連帯保証をなし、被控訴人と控訴人間において、昭和二九年八月九日控訴人博は同人所有の原判決目録(一)の不動産、控訴人極人は同人所有の同(二)の不動産について右債務を担保するため共同抵当権設定契約をなし、かつ、控訴人らが被控訴人に対し、右債務を弁済期に弁済しないときは右(一)(二)の不動産は代物弁済として被控訴人に移転する旨の停止条件付代物弁済契約を締結し、(これが代物弁済の予約と解すべきことは原判示のとおりである。)昭和二九年八月一一日本件(一)(二)の不動産について右各契約に基く共同抵当権設定登記並びに所有権移転請求権保全の仮登記手続を経由したところ、同登記申請書類の作成を委嘱した者ないし委嘱を受けてこれら書類を作成した者らの過誤のため、誤つて元本の弁済期を昭和三一年二月九日とする登記がなされたことは、原判示事実及び成立に争のない甲第一、二号証、原審証人工藤陸男の証言に徴し明白であり、被控訴人の弁論の全趣旨によれば、その請求するところは、昭和二九年八月九日成立し弁済期を昭和三一年二月九日として登記してある前認定の消費貸借上の債権について成立した代物弁済の予約完結権を行使し、よつて前認定の仮登記の本登記手続を求めるものと解するのを相当とするので、控訴人の抗弁は採用に値しない。

二  控訴人らの前示事実摘示(1)及び(2)主張及び原判決摘示事実二の(二)の工藤陸男の越権代理行為のであるという主張について。

右の中引用の原判決の認定に反する主張は、すでに採用しがたい事実を前提とするものであり、原審及び当審証人工藤陸男の証言、同宮本浩の証言の一部及び右一に認定した事実をかれこれ合わせ考えると、本件消費貸借契約、抵当権設定契約、代物弁済契約の予約は原判示のとおりいずれも有効になされたものと認めるのが相当で、控訴人らの主張は理由がない。

三  控訴人らの原判決摘示事実二の及び前示事実摘示の抗弁について。

控訴人らは原判決末尾の別表第一ないし第三記載のとおり利息を支払つたと主張するけれども、この点に関する前示松本ヒサ子の証言松本博の供述は前示工藤陸男宮本浩の各証言と対照し採用しがたく、乙第一の各号証ないし第五の各号証が真正に成立しその記載が真実である旨の右松本博の供述は容易く信用することができないし、右乙号各証はその記載の態容、記載の整然としていないことに照らし、その内容が事実に合致するとは到底考えられないし、その他に控訴人らの弁済の抗弁事実を認めうる証拠はないので、本件元金一五〇万円に対しては、被控訴人の自認する限度、すなわち、昭和三〇年四月九日までの八カ月間の金利が支払われたに過ぎないと認めるの外はないところ、右金員のうち利息制限法所定の年一割五分を超過する部分は控訴人らの見解のとおりすべて元金の弁済に充当されたと見なすべきものとしても、元金への支払と見なすべき額は元金の一割程度に過ぎないことは計算上明らかであつて、結局残元金約一三五万円及びこれに対する予約完結の意思表示のなされた時(昭和三二年七月二三日)までの利息制限法所定の利息及び遅延損害金が存在した訳であるばかりでなく右控訴人らのなした各弁済は利息の支払としてなされ、被控訴人もまた利息として受領していることは当事者弁論の全趣旨に照らし明白である以上、特殊の事情の認められない本件においては、元金の弁済に充当されたとみなさるべき超過利息額について、被控訴人に不当利得返還義務があるかどうかはともかく、予約完結権が消滅するものと解すべき道理はないので、これに反する控訴人らの見解は採用しない。

よつて、被控訴人の請求を認容すべく、被控訴人において所有権移転登記を求める部分の請求を、仮登記の本登記を求める趣旨に訂正したので、この部分に関する原判決を主文第三項のとおり変更し、控訴人らの控訴は理由がないので棄却する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例